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【管理職・人事必見】年5日有給義務化違反の罰則とリスク回避策 時季指定の実務ポイント

Tags: 有給休暇, 年5日取得義務, 労働基準法, 罰則, リスク管理, 時季指定, 管理職, 人事労務

はじめに:年5日有給取得義務化と管理職・人事担当者の責任

2019年4月より施行された働き方改革関連法により、労働基準法が改正され、使用者は法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者に対し、年5日については労働者の時季を指定して取得させることが義務付けられました。これは、労働者が適切に休暇を取得し、心身のリフレッシュを図ることを目的としています。

この「年5日の時季指定義務」は、企業、特に管理職や人事労務担当者にとって、コンプライアンス遵守の観点から非常に重要です。義務を怠った場合、労働基準法に基づく罰則が適用されるリスクがあります。本記事では、この罰則リスクの詳細と、管理職・人事担当者が罰則を回避し、適切に年次有給休暇の管理を行うための実践的な方法について解説します。

年5日取得義務違反とは? 法令上の罰則

労働基準法第39条と第120条

年次有給休暇の年5日取得義務は、労働基準法第39条第7項に定められています。この規定では、「使用者は、(中略)労働者ごとに、その有給休暇を与えた日数を明らかにした書類を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後三年保存しなければならない。」と、管理簿の作成・保存義務とともに、年5日の時季指定義務が課されています。

そして、この義務に違反した場合の罰則は、労働基準法第120条第1号に定められています。

罰則の内容と対象

労働基準法第120条第1号によれば、労働基準法第39条第7項の規定に違反した使用者(事業主または事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者)は、30万円以下の罰金に処される可能性があります。

この罰則は、「労働者ごとに」年5日の有給休暇を取得させなかった事実に対して適用されるため、例えば対象となる労働者が複数いる場合、違反が認められる労働者の人数分の罰則が科されるリスクも理論的には存在します。

管理職は、事業主のために労働者に関する事項について行為をする者に該当するため、法解釈によっては罰則の対象となり得る立場です。ただし、一般的には企業(法人)や代表者が処罰されるケースが多いとされます。しかし、重要なのは罰則そのものだけでなく、コンプライアンス違反が企業の信頼性やレピュテーションに与える影響、そして部下からの信頼を失うリスクです。

なぜ違反が発生するのか? 管理上の課題

年5日取得義務の違反が発生する背景には、いくつかの管理上の課題があります。 * 従業員が自ら進んで有給休暇を取得しない文化・雰囲気 * 業務が多忙で、従業員が休暇を取得しにくい状況 * 労働者ごとの有給休暇取得日数の管理が不十分 * 時季指定を行うための社内ルールやプロセスが整備されていない * 管理職自身が制度を十分に理解していない

これらの課題に対処し、罰則リスクを回避するためには、管理職や人事担当者による積極的かつ計画的な取り組みが必要です。

罰則を回避するための最重要対策:時季指定権の適切な行使

年5日取得義務の罰則を回避するための最も確実な方法は、対象となる労働者に対して、使用者側から確実に年5日の有給休暇を「時季指定」して取得させることです。

時季指定権とは? 法令上の要件

時季指定権とは、使用者が労働者に対して、年次有給休暇をいつ取得するかを一方的に指定する権利です。ただし、この権利を行使するには以下の要件を満たす必要があります。 1. 対象労働者:法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者であること。 2. 対象日数:年5日であること。 3. 時季指定の方法:労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するように努めなければなりません。労使協定の締結は不要ですが、労働者の意見聴取は義務です。

対象となる労働者

正社員だけでなく、週所定労働日数が少ないパート・アルバイトであっても、継続勤務年数によって比例付与される年次有給休暇の日数が10日以上となる場合は、時季指定の対象となります。例えば、週4日勤務で3年6ヶ月以上勤務している労働者や、週3日勤務で5年6ヶ月以上勤務している労働者などが該当します。

時季指定の手順と注意点

時季指定は、以下の手順で行うことが望ましいです。 1. 対象者の把握: 基準日(入社日など)から1年以内に付与された年次有給休暇について、すでに5日以上の取得実績があるかを確認します。 2. 未取得者への周知と取得勧奨: 基準日から一定期間(例:6ヶ月程度)が経過した時点で、年5日を取得できていない労働者に対し、対象となる日数と、基準日から1年以内に取得する必要がある旨を通知します。併せて、自ら希望する時季に取得するよう促します。 3. 労働者の意見聴取: 取得勧奨後も取得が進まない場合、または計画的に取得させる必要がある場合、対象労働者から時季に関する意見を聴取します。面談やアンケートなど、記録に残る形で行うことが望ましいです。 4. 意見の尊重と時季指定: 労働者の意見を十分に聴取し、可能な限りその意見を尊重した上で、具体的な取得時季を指定します。業務の正常な運営を妨げる場合は時季変更権を行使できますが、これは労働者からの請求に対するものであり、使用者からの時季指定においては、原則として労働者の意見を尊重する必要があります。 5. 指定時季の通知: 指定した取得時季を、対象労働者に書面などで明確に通知します。 6. 管理簿への記録: 指定した時季および実際に取得した日を年次有給休暇管理簿に正確に記録します。

従業員への働きかけ方:コミュニケーションの重要性

時季指定は法的な義務ですが、一方的な指定は従業員のモチベーション低下につながる可能性があります。管理職は、義務の履行と同時に、従業員が心理的な抵抗なく有給休暇を取得できるような働きかけを行うことが重要です。

有給休暇管理簿の正確な記録と活用

年5日の時季指定義務と並行して、労働基準法第39条第7項により、使用者には年次有給休暇管理簿の作成と3年間の保存が義務付けられています。これは、労働者ごとの年次有給休暇の付与日数、取得日数、取得時季を正確に把握し、管理するために不可欠なツールであり、罰則リスク回避のためにも極めて重要です。

管理簿の作成・保存義務

対象となる労働者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全労働者です。管理簿は、書面または電子データで作成・保存することが認められています。

管理簿の記載事項

管理簿には、労働者ごとに以下の事項を記載する必要があります。 1. 基準日(年次有給休暇を付与した日) 2. 付与日数 3. 取得日数 4. 取得時季(取得した具体的な日付)

これらの情報は、労働者の有給休暇の権利を証明するだけでなく、使用者側が年5日取得義務を履行しているかどうかを確認するための客観的な証拠となります。

時季指定記録としての管理簿の活用

管理簿は、単なる取得状況の記録にとどまらず、時季指定を行った事実を記録するツールとしても活用できます。使用者による時季指定により有給休暇を取得させた場合は、その旨を管理簿に明記しておくことで、適切に義務を履行したことを証明できます。

日々の業務に追われる中で、正確な管理簿の作成・更新は負担となることもありますが、これは罰則リスク回避のための生命線です。人事システムや勤怠管理システムを活用し、効率的かつ正確な管理を行うことが推奨されます。

その他、罰則リスクを低減するための取り組み

時季指定や管理簿の整備に加え、以下のような取り組みも罰則リスクの低減に繋がります。

まとめ:コンプライアンス遵守と有給休暇取得促進の両立を目指して

年次有給休暇の年5日取得義務は、労働者の権利を守り、健康的な働き方を実現するための重要な法改正です。この義務に違反した場合、企業および管理職は罰則を含む様々なリスクに直面する可能性があります。

管理職・人事担当者としては、単に罰則を恐れるだけでなく、法的な義務の履行をテコとして、従業員が当たり前に有給休暇を取得できる職場文化を醸成していくことが求められます。

具体的には、 * 対象労働者を正確に把握し、取得状況を常にモニタリングすること * 年5日の未取得者に対して、計画的かつ丁寧な時季指定を行うこと * 労働者の意見を尊重したコミュニケーションを心がけること * 年次有給休暇管理簿を正確に作成・保存すること * 計画的付与制度や職場環境改善など、より積極的な取得促進策を検討・実施すること

これらの対策を通じて、コンプライアンスを遵守しながら、部下が心身ともにリフレッシュできる環境を提供し、生産性の向上に繋げていくことが、現代の管理職にとって重要な役割と言えるでしょう。