【フル有給攻略】契約社員・嘱託社員の年次有給休暇 法定要件と管理実務
【フル有給攻略】契約社員・嘱託社員の年次有給休暇 法定要件と管理実務
企業の管理職や人事労務担当者の皆様は、正社員のみならず、契約社員や嘱託社員といった多様な雇用形態の従業員の年次有給休暇(以下、有給休暇)管理にも対応する必要があります。これらの労働者に対する有給休暇の取り扱いは、労働基準法に基づいて正しく行うことが求められ、誤った対応は法的なリスクを招く可能性があります。
本記事では、契約社員・嘱託社員の有給休暇に関する法定要件、付与日数、管理上の注意点について、法改正や判例を踏まえながら詳細に解説します。「フル有給攻略ガイド」として、読者の皆様がこれらの従業員の有給休暇を適切に管理し、コンプライアンスを遵守するための実践的な手引きを提供いたします。
契約社員・嘱託社員にも年次有給休暇は付与されるのか
労働基準法において、年次有給休暇は「労働者」に対して付与される権利です(労働基準法第39条)。ここでいう「労働者」とは、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者を指します。雇用形態に関わらず、契約社員や嘱託社員もこの「労働者」に該当するため、法定の要件を満たせば年次有給休暇が付与されます。
重要なのは、雇用契約の名称ではなく、実態として指揮命令下で働き、その対価として賃金を受け取っているかどうかという点です。
年次有給休暇の付与要件
契約社員・嘱託社員に有給休暇が付与されるための法定要件は、正社員と同様に以下の2点です。
- 雇入れの日から6ヶ月継続勤務していること
- 全労働日の8割以上出勤していること
これらの要件を満たした場合、原則として雇入れの日から6ヶ月経過した日に最初の有給休暇が付与されます。その後は、最初の付与日から1年ごとに同様の要件を満たせば、継続勤務年数に応じた日数が付与されていきます。
契約更新時の継続勤務年数の計算
契約社員の場合、有期労働契約を締結し、契約期間満了後も引き続き雇用契約が更新されるケースが多くあります。この場合、有給休暇の付与要件における「継続勤務」の期間は、最初の雇入れの日から通算して計算されます。
例えば、1年契約の契約社員が3回契約を更新した場合、勤続年数は最初の雇入れ日から4年と計算され、有給休暇の付与日数は勤続4年に応じた日数となります。契約が更新されるたびに勤続年数がリセットされるわけではありません。
契約社員・嘱託社員への年次有給休暇付与日数
契約社員・嘱託社員への有給休暇付与日数は、その労働者の週所定労働日数または週所定労働時間によって異なります。
通常の労働者(週所定労働日数が5日以上または週所定労働時間が30時間以上)
週の所定労働日数が5日以上、または週の所定労働時間が30時間以上の契約社員・嘱託社員には、正社員と同様に、以下の日数が付与されます(労働基準法第39条第1項、第2項)。
| 継続勤務年数 | 付与日数 | | :----------- | :------- | | 6ヶ月 | 10日 | | 1年6ヶ月 | 11日 | | 2年6ヶ月 | 12日 | | 3年6ヶ月 | 14日 | | 4年6ヶ月 | 16日 | | 5年6ヶ月 | 18日 | | 6年6ヶ月以上 | 20日 |
短時間労働者(週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満)
週の所定労働日数が4日以下であり、かつ、週の所定労働時間が30時間未満の契約社員・嘱託社員(いわゆるパートタイム労働者と同等の働き方をする有期契約労働者)には、その週所定労働日数に応じて、比例付与による有給休暇が付与されます(労働基準法第39条第3項)。
| 週所定労働日数 | 1年間の所定労働日数 | 継続勤務年数に応じた付与日数 | | :------------- | :------------------ | :--------------------------- | | | | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 | | 4日 | 169日から216日まで | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 | | 3日 | 121日から168日まで | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | | 2日 | 73日から120日まで | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | | 1日 | 48日から72日まで | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
※1年間の所定労働日数が48日未満の場合は、年次有給休暇の付与義務はありません。
契約社員や嘱託社員の労働条件が、年度途中で変更になる場合もあります。例えば、週5日勤務から週3日勤務に変更された場合、その後の有給休暇の付与については、変更後の労働条件に基づき、比例付与の対象となるかどうかの判断や、付与日数の計算を行う必要があります。
管理実務上のポイントと注意点
契約社員・嘱託社員の有給休暇管理においては、以下の点に注意が必要です。
1. 管理簿の作成・記載義務
2019年4月1日施行の労働基準法改正により、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する義務が課せられました(労働基準法第39条第5項、第108条)。これは契約社員・嘱託社員を含むすべての有給休暇付与対象労働者に適用されます。管理簿には、付与日数、取得日、取得日数、残日数などを正確に記載する必要があります。
2. 年5日の時季指定義務
同様に、労働者数が10人以上の事業場においては、有給休暇が10日以上付与されるすべての労働者(契約社員・嘱託社員を含む)に対し、付与日から1年以内に5日について、使用者が労働者の意見を聴取し、時季を指定して取得させることが義務付けられています(労働基準法第39条第7項)。この義務を怠った場合、罰則の対象となり得ます。契約社員・嘱託社員に対しても、この義務が適用されることを理解し、適切に対応する必要があります。
3. 計画的付与制度
労使協定を締結することで、年次有給休暇のうち5日を除いた残りの日数について、計画的に取得日を定める「計画的付与制度」を導入することができます(労働基準法第39条第6項)。この制度は、契約社員・嘱託社員に対しても適用可能です。計画的な取得を促進することで、チーム全体の業務調整がしやすくなり、特定の時期に休みが集中するリスクを軽減できます。
4. 退職時の有給休暇
契約期間満了や自己都合により退職する契約社員・嘱託社員についても、退職日までに未消化の有給休暇がある場合、原則として消化させることが必要です。退職日を超えて有給休暇を取得することはできません。退職日までの期間で未消化分を全て消化できるかは、残日数と残りの勤務日数によります。トラブル防止のため、退職希望者には早めに有給休暇の残日数を確認させ、消化計画について話し合うことが望ましいです。未消化分の買い取りは、法的には退職時の例外として認められることがありますが、企業の義務ではありません。
5. 同一労働同一賃金への配慮
パートタイム・有期雇用労働法(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)により、同一企業内で働く正社員と、契約社員・嘱託社員のような有期雇用労働者との間で、不合理な待遇差を設けることが禁止されています。有給休暇については、労働基準法で付与要件や日数が定められているため、法に基づいた対応を行っていれば問題ありません。しかし、法定を上回る独自の有給休暇制度がある場合など、個別の状況においては不合理な待遇差とならないか確認が必要です。
6. 無期転換後の取扱い
有期労働契約が更新されて通算5年を超えた労働者から申込みがあった場合、使用者は有期契約を無期労働契約に転換させる義務があります(労働契約法第18条)。無期転換後も、有給休暇の勤続年数は通算して計算されます。無期転換を機に、正社員と同様の労働条件(所定労働日数・時間)に変更される場合は、その時点からの有給休暇付与日数の計算もそれに合わせて変更する必要があります。
まとめ
契約社員や嘱託社員への年次有給休暇付与は、労働基準法に基づき、正社員と同様に適切に行う必要があります。特に、継続勤務年数の通算、週所定労働日数に応じた比例付与、そして年5日の時季指定義務は、管理職・人事担当者が正確に理解しておくべき重要なポイントです。
適切な有給休暇の管理は、法的なリスクを回避し、コンプライアンスを遵守するだけでなく、多様な雇用形態で働く従業員が安心して休暇を取得できる環境を整備することにつながります。これにより、従業員のワークライフバランスが向上し、結果として企業全体の生産性向上にも寄与します。
自社の契約社員・嘱託社員の労働条件を改めて確認し、本記事で解説した法定要件に基づいた有給休暇の管理・運用ができているか、今一度点検することをお勧めします。