【フル有給攻略】年次有給休暇に関する労使協定 締結が必要な場合と記載事項 管理職・人事担当者向け徹底解説
はじめに:管理職・人事担当者が知るべき労使協定の重要性
年次有給休暇(以下、年休)の取得促進や適正な管理は、企業のコンプライアンス遵守、従業員の健康維持、そして生産性向上に不可欠です。特に、労働基準法が定める年休制度に加え、柔軟な取得を可能にする「時間単位年休」や、計画的な取得を促進する「計画的付与制度」を導入・運用する際には、労働者との間で「労使協定」を締結する必要があります。
管理職や人事労務担当者として、これらの制度を正しく理解し、適切な労使協定を締結・運用することは、法的なリスクを回避し、スムーズな年休管理を実現するために非常に重要です。本稿では、「フル有給攻略ガイド」のコンセプトに基づき、年休に関する労使協定が必要となるケース、協定に記載すべき具体的な事項、そして管理職が留意すべき実務上のポイントを徹底解説します。
年次有給休暇における労使協定とは
労働基準法では、年休の付与や取得に関する基本的なルールが定められています。しかし、特定の運用方法(計画的付与や時間単位年休など)については、使用者(会社側)と労働者の代表(労働組合または労働者の過半数を代表する者)との間で書面による協定を締結することが義務付けられています。この協定を「労使協定」といいます。
労使協定は労働基準監督署への届出義務はありませんが、その内容が有効であるためには、労働基準法の要件を満たしている必要があります。また、締結した労使協定の内容は、就業規則と同様に労働者に周知しなければなりません。
年次有給休暇に関する労使協定の締結が必要な主なケース
年休に関して、使用者と労働者代表との間で労使協定の締結が必要となるのは、主に以下の二つのケースです。
1. 年次有給休暇の計画的付与制度を導入する場合
労働基準法第39条第6項は、使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、当該協定で定めるところにより、有給休暇を与えることができると規定しています。
計画的付与制度は、年休のうち労働者が自由に取得できる日数(最低5日)を除いた残りの日数について、労使協定で付与時期を定めることにより、計画的に年休を取得させる制度です。この制度を導入するためには、労使協定の締結が必須となります。
計画的付与に関する労使協定に定めるべき事項
労使協定には、労働基準法施行規則第24条の4に基づき、少なくとも以下の事項を定める必要があります。
- 計画的付与の対象となる労働者の範囲: 正社員、パートタイム労働者、契約社員など、制度の対象となる労働者の範囲を明確に定めます。例えば、「全従業員」や「勤続6ヶ月以上の正社員」といった形です。
- 計画的付与の対象となる年休の日数: 付与日数のうち、計画的付与の対象とする日数を定めます。ただし、労働者が自由に取得できる権利を持つ最低5日の年休は、計画的付与の対象から除外する必要があります。例えば、年間10日以上の年休が付与される労働者に対し、5日を超える部分を計画的付与の対象とするなどです。
- 計画的付与の方法:
具体的な付与方法を定めます。主な方法としては以下のものがあります。
- 事業場全体の休業による一斉付与: 特定の日に会社全体を一斉休業とする方法(例: 夏季一斉休暇、年末年始休暇)。
- 班・グループ別の交替制付与: 部署やグループごとに交替で年休を取得させる方法。
- 個人別の付与: 事前に個人ごとに年休取得日を決定する方法。
- その他: 計画的付与日として指定された日が法定休日や所定休日と重なった場合の取扱い、計画的付与日について新たに年休が付与されていない労働者(新入社員など)の取扱いなどを定めておくと、運用上の混乱を防ぐことができます。
2. 時間単位年休制度を導入する場合
労働基準法第38条の2第2項は、前条第一項本文の規定による有給休暇(略)については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、一時間未満の端数を生じたときは一時間とし、当該事業場の労働者の過半数により組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数により組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、一日の所定労働時間を下回る時間で与えることができると規定しています。
時間単位年休制度は、年休を1日単位ではなく、時間単位で取得できるようにする制度です。この制度を導入するためにも、労使協定の締結が必須となります。
時間単位年休に関する労使協定に定めるべき事項
労使協定には、労働基準法施行規則第24条の5に基づき、少なくとも以下の事項を定める必要があります。
- 時間単位年休の対象となる労働者の範囲: 全ての労働者を対象とすることが望ましいですが、対象となる労働者の範囲を限定する場合は、その範囲を明確に定めます。業務の性質等により時間単位での取得が難しい職種を除外することも考えられます。
- 時間単位で与えることができる年休の日数: 時間単位年休として取得できるのは、年次有給休暇付与日数のうち 5日分を限度 とします。労使協定では、この5日分の範囲内で具体的な日数を定める必要があります。例えば、「1年度あたり5日分」などです。
- 1日分の年休を時間単位で取得する場合の時間の単位: 労働者が時間単位年休を取得する際の、1日分の年休を時間単位に換算する方法を定めます。原則として、1時間の整数倍 でなければなりません。例えば、「1日=所定労働時間(8時間)」や、「1日=7.5時間」などです。
- 時間単位年休を取得した場合の年休残日数の計算方法: 時間単位で取得した年休を、どのように日単位に換算して残日数を計算するかを定めます。例えば、「合計時間数を1日の所定労働時間で割って計算し、小数点以下の端数は1時間単位に切り上げる」などです。
- その他: 時間単位年休を請求する際の手続き、不就労部分の賃金の取扱いなどを定めておくと、運用がスムーズになります。
労使協定締結後の管理職の実務上の留意点
労使協定を締結しただけでは、制度が円滑に運用されるわけではありません。管理職は、締結された労使協定の内容を正確に理解し、日々の部下とのコミュニケーションや業務管理に活かす必要があります。
- 労使協定内容の周知徹底: 締結した労使協定の内容は、就業規則の一部として、または別の書面として、全ての労働者に周知しなければなりません。管理職は、部下からの質問に答えられるよう、内容を把握しておく必要があります。
- 計画的付与日の業務調整: 計画的付与制度により特定の日に年休が付与される場合、その日の業務が滞りなく遂行されるよう、事前に人員配置や業務分担を調整する責任があります。
- 時間単位年休の取得促進と業務への影響: 時間単位年休は労働者にとって柔軟な働き方をサポートする制度ですが、取得が頻繁すぎたり、特定の時間帯に集中したりすると、業務に支障をきたす可能性もあります。部下と適切にコミュニケーションを取り、業務への影響を最小限に抑えつつ、制度活用を促すバランス感覚が必要です。
- 年休管理簿との連携: 計画的付与や時間単位年休の取得状況も、労働者ごとの年休管理簿に正確に記載する必要があります。人事部門と連携し、管理システムへの入力漏れがないよう確認します。
- 時季変更権との関係: 計画的付与制度の対象となった日については、原則として労働者の時季変更権は行使できません。また、時間単位年休についても、労使協定の内容に従って取得させることが原則であり、通常の時季変更権とは異なる運用になります。管理職は、これらの点を理解しておく必要があります。
まとめ:適切な労使協定の締結・運用で「フル有給攻略」を目指す
年次有給休暇に関する労使協定は、計画的付与制度や時間単位年休といった、年休の柔軟かつ計画的な取得を可能にする制度を導入・運用する上で不可欠な手続きです。管理職や人事労務担当者は、労使協定が必要となるケース、記載すべき事項、そして運用上の注意点を正確に理解し、労働者の代表との間で適切な協定を締結することが求められます。
適切な労使協定の締結と、その内容に基づいた日々の丁寧な管理・運用は、年休取得率の向上、法的なコンプライアンスの確保、そして従業員エンゲージメントの向上に繋がります。「フル有給攻略ガイド」として、本記事が管理職・人事担当者の皆様の円滑な年休管理の一助となれば幸いです。労働基準法や関連判例を踏まえ、自信を持って年休制度を運用し、部下のワークライフバランス実現をサポートしてください。