管理職・人事担当者必見 年次有給休暇管理簿の作成・管理義務と正しい対応
年次有給休暇管理簿の作成・管理義務:管理職・人事担当者が知るべき正しい対応
「フル有給攻略ガイド」へお越しいただきありがとうございます。企業の有給休暇取得率向上とコンプライアンス遵守は、管理職や人事労務担当者にとって重要な責務です。特に、2019年4月1日に施行された労働基準法改正により、企業には年次有給休暇に関する新たな義務が課されました。その一つが「年次有給休暇管理簿」の作成と保存です。
この管理簿は、単なる事務作業ではなく、労働者の有給休暇取得状況を正確に把握し、労働基準法第39条第7項に基づく「年5日の年次有給休暇の確実な取得」義務を履行するための重要なツールとなります。本記事では、管理職や人事担当者の皆様が、この年次有給休暇管理簿について正しく理解し、適切に対応するための実践的な知識を解説いたします。法的な要件から、実務上の注意点まで、貴社のコンプライアンス遵守と効率的な有給休暇管理にお役立てください。
年次有給休暇管理簿とは何か?
年次有給休暇管理簿とは、労働者ごとに「年次有給休暇を付与した日」「労働者ごとの年次有給休暇日数」「労働者ごとに取得した年次有給休暇の日付」を記録するための法定帳簿です。これは、労働者名簿、賃金台帳と並ぶ、労働基準法で定められた重要な法定帳簿の一つとなります。
この管理簿の目的は、企業が労働者に対して年次有給休暇を適切に付与し、特に労働基準法第39条第7項で義務付けられている「年5日の年次有給休暇」を確実に取得させているかを記録・管理することにあります。労働者自身が自分の有給休暇取得状況を把握することにも繋がる側面もあります。
なぜ年次有給休暇管理簿の作成が義務化されたのか?
年次有給休暇管理簿の作成・保存が義務化された背景には、日本の年次有給休暇取得率の低さがありました。これを受けて、働き方改革関連法の一環として労働基準法が改正され、2019年4月1日より、使用者(企業)は、年次有給休暇が10日以上付与される全ての労働者に対して、年間5日の年次有給休暇を確実に取得させることが義務付けられました(労働基準法第39条第7項)。
この「年5日取得義務」を適切に履行していることを証明し、また企業自身が管理するためには、労働者ごとの有給休暇の付与日数と取得日数を正確に記録する必要があります。その記録の手段として、年次有給休暇管理簿の作成・保存が義務付けられたのです。
管理簿の対象となる労働者と記載事項
年次有給休暇管理簿の作成・管理が必要となるのは、以下の条件を満たす全ての労働者です。
- 対象労働者: 年次有給休暇が10日以上付与される労働者。
- これは正社員だけでなく、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満のいわゆる「比例付与」の対象となるパートタイム労働者等であっても、継続勤務年数に応じて年休付与日数が10日以上となる場合には、管理簿作成の対象となります。
- 記載事項: 労働基準法施行規則第24条の7で定められています。
- 労働者ごとの年次有給休暇を付与した日
- 労働者ごとの年次有給休暇日数(上記1.の付与日に付与された日数)
- 労働者ごとに年次有給休暇を取得した日付
特に重要なのは「取得した日付」を一人ひとり正確に記録することです。これにより、誰がいつ、何日取得したのか、そして義務である年5日取得を達成できているのかを一目で確認できるようになります。
管理簿の記録方法と保存期間
年次有給休暇管理簿には特定の様式は定められていません。労働者名簿や賃金台帳のような既存の書類に追記する、独自の様式を作成する、市販の労務管理システムを活用するなど、企業の実情に応じて適切な方法を選択できます。ただし、上記の法定記載事項(付与日、付与日数、取得日付)を網羅している必要があります。
- 記録方法: 氏名別、部署別など、企業の管理しやすい方法で構いません。重要なのは、労働者ごとに上記3つの事項が網羅され、必要な時にすぐに確認できる状態にしておくことです。
- 保存期間: 年次有給休暇管理簿は、労働者が年次有給休暇を取得した日から起算して5年間(当分の間は3年間)保存する必要があります。これは、労働基準法第109条で定められた帳簿書類の保存期間と同様です。保存期間の起算日を「取得した日」とする点に注意が必要です。
管理職・人事担当者が実践すべきこと
年次有給休暇管理簿の作成・管理義務を適切に履行するためには、管理職と人事担当者が連携し、以下の点に実践的に取り組む必要があります。
- 管理体制の整備:
- 誰が管理簿を作成・更新するのか、その責任者を明確にします。
- 管理簿をどのように作成・管理するか(システム導入、表計算ソフト利用など)を決定し、運用ルールを定めます。
- 部署ごとの管理職に対し、管理簿の重要性と記載内容について周知徹底を図ります。
- 正確な記録の徹底:
- 労働者からの年次有給休暇取得申請があった際には、速やかにその日付を管理簿に記録する仕組みを作ります。
- システムを利用する場合でも、入力ミスがないよう定期的に確認を行います。
- 半日単位年休や時間単位年休の場合も、取得した日付・時間数を正確に記録します。
- 年5日取得義務の進捗確認と促進:
- 管理簿を活用し、各労働者の年5日取得の進捗状況を定期的に確認します。
- 年度後半になっても5日取得が進んでいない労働者がいる場合は、その労働者や部署の管理職と連携し、計画的な取得を促します。労働者本人の意見を尊重しつつ、時季指定権の行使も視野に入れる必要がある場合は、その要件と手続きを正しく理解しておきます。
- 労働者への説明と情報共有:
- 必要に応じて、労働者本人に自身の有給休暇取得状況をフィードバックできるようにします。労働者が自身の権利を理解し、計画的に取得できるようにサポートすることも、管理職の役割の一つです。
- 年次有給休暇管理簿について労働者から質問があった場合に、正確に説明できるよう準備しておきます。
- 法改正や通達への継続的な注意:
- 労働基準法や関連法令、厚生労働省からの通達等は随時改正・更新される可能性があります。常に最新の情報を確認し、管理簿の運用が法的に準拠しているかを確認する習慣を持つことが重要です。
まとめ
年次有給休暇管理簿の作成・管理義務は、単に法律で定められているから行うのではなく、企業が労働者の健康確保とワークライフバランス推進に真摯に取り組む姿勢を示すものであり、ひいては生産性向上にも繋がる重要な施策です。
管理職・人事担当者の皆様におかれましては、本記事で解説した内容を参考に、貴社における年次有給休暇管理簿の運用体制を見直し、労働基準法に基づいた正確な記録と管理を徹底してください。これにより、年5日取得義務の適切な履行、労働者との信頼関係構築、そして潜在的な法的リスクの回避を実現することができます。
「フル有給攻略ガイド」では、今後も管理職や人事労務担当者の皆様が安心して有給休暇制度を運用するための、実践的で信頼性の高い情報を提供してまいります。貴社の有給休暇管理のさらなる最適化に、ぜひ本サイトをご活用ください。