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【管理職・人事必見】パートタイム労働者の有給休暇 比例付与の正しい計算と管理実務

Tags: 年次有給休暇, 比例付与, パートタイム, 計算, 管理実務, 人事労務, 管理職向け

はじめに

近年、多様な働き方の普及に伴い、パートタイム労働者を雇用する企業が増加しています。それに伴い、パートタイム労働者の年次有給休暇(以下、有給休暇)に関するご担当者様からのご質問も多く寄せられています。特に、通常の労働者とは異なる「比例付与」の考え方や計算方法について、正確な知識と適切な管理が求められています。

本記事では、労働基準法に基づいたパートタイム労働者の有給休暇の比例付与について、その対象者、正しい計算方法、そして管理職・人事労務担当者が実務において留意すべきポイントを詳しく解説します。本記事が、貴社におけるパートタイム労働者の有給休暇管理の適正化とコンプライアンス遵守の一助となれば幸いです。

年次有給休暇の基本的な付与要件

まず、フルタイムで勤務する一般的な労働者の有給休暇の付与要件を確認しておきましょう。労働基準法第39条により、以下の両方を満たす労働者には、雇入れの日から起算して6ヶ月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合に10労働日の有給休暇が付与されます。

その後も、継続勤務期間1年ごとに所定の有給休暇が付与されます。

パートタイム労働者への有給休暇「比例付与」とは

パートタイム労働者についても、上記の有給休暇付与の基本的な考え方は変わりません。しかし、週の所定労働日数や1年間の所定労働日数が少ない労働者に対しては、通常の労働者とは異なる日数が付与されます。これが「比例付与」と呼ばれる制度です。

労働基準法第39条第3項では、週の所定労働時間が30時間未満の労働者のうち、週の所定労働日数が4日以下または1年間の所定労働日数が216日以下の者に対し、その所定労働日数に応じて比例的に有給休暇を付与することが定められています。

この比例付与の目的は、フルタイム労働者との均衡を図りつつ、短時間労働者にも労働義務のない日(休日)に賃金が支払われる日(有給休暇)を保障することにあります。

比例付与の対象者と付与日数

比例付与の対象となるのは、以下のいずれかの条件を満たす労働者です。

  1. 週の所定労働日数が4日以下
  2. 1年間の所定労働日数が216日以下

かつ、週の所定労働時間が30時間未満である必要があります。週の所定労働時間が30時間以上の場合は、所定労働日数に関わらず、フルタイム労働者と同じ日数が付与されます。

比例付与で付与される有給休暇の日数は、継続勤務期間と週または年間の所定労働日数に応じて、以下の基準表に基づき定められています。

| 継続勤務期間 | 週所定労働日数 | 1年間の所定労働日数 | 付与日数 | | :----------- | :------------- | :----------------- | :------- | | 6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 7日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 5日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 3日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 1日 | | 1年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 8日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 6日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 4日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 2日 | | 2年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 9日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 8日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 5日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 2日 | | 3年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 10日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 9日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 6日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 2日 | | 4年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 12日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 10日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 7日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 3日 | | 5年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 13日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 11日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 8日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 3日 | | 6年6ヶ月以上 | 4日 | 169日〜216日 | 15日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 13日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 9日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 10日 |

出典:厚生労働省「年次有給休暇」より抜粋・改変

この表を正確に理解し、労働者の継続勤務期間と所定労働日数(または時間数)に応じて、正しい日数を付与することが重要です。

比例付与における計算のポイントと具体例

比例付与の計算自体は、上記の基準表に当てはめることで行えます。重要なのは、対象となる労働者の「週所定労働日数」または「1年間の所定労働日数」を正確に把握することです。

週所定労働日数が決まっている場合

週の所定労働日数が固定されている場合は、最もシンプルです。基準表の「週所定労働日数」の列を参照します。

例1: * 勤続期間:1年6ヶ月 * 週所定労働日数:週3日 * 週所定労働時間:週20時間

この場合、週所定労働日数が3日であり、週所定労働時間が30時間未満であるため、比例付与の対象です。基準表の「1年6ヶ月」かつ「週所定労働日数3日」の欄を見ると、「6日」と記載されています。したがって、この労働者には6日の有給休暇が付与されます。

週所定労働日数が変動する場合

シフト制などにより、週の所定労働日数が変動する場合は、付与時点における直前の実績などを基に、週平均の所定労働日数を算定するか、1年間の所定労働日数を見込みで算定して基準表に当てはめます。一般的には、契約上の年間の所定労働日数で判断することが推奨されます。契約などで年間所定労働日数が定められていない場合は、過去1年間の勤務実績から算定することも考えられますが、労使間の合意や就業規則等での明確化が望ましいです。

例2: * 勤続期間:6ヶ月 * 1年間の契約上の所定労働日数:150日 * 週所定労働時間:週15時間

この場合、1年間の所定労働日数が150日であり、週所定労働時間が30時間未満であるため、比例付与の対象です。基準表の「6ヶ月」かつ「1年間の所定労働日数121日〜168日」の欄を見ると、「5日」と記載されています。したがって、この労働者には5日の有給休暇が付与されます。

出勤率の計算

比例付与の対象者であっても、有給休暇が付与されるためには、付与時点までの期間(最初の付与なら雇入れから6ヶ月、2回目以降なら前回の付与日から1年間)の全労働日の8割以上出勤している必要があります。

「全労働日」には所定休日や欠勤日も含まれますが、以下の日は「出勤したもの」とみなされます。

また、「所定休日」は出勤率の算定から除外されます。

正確な出勤率の計算は、有給休暇付与の前提となりますので、勤怠管理を適切に行うことが重要です。

管理職・人事労務担当者が留意すべきポイント

1. 正確な労働条件の把握と周知

パートタイム労働者の契約内容(週または年間の所定労働日数・時間数)を正確に把握することがすべての基本となります。雇用契約書や労働条件通知書で明確にし、労働者本人にもしっかり説明してください。

2. 基準表に基づいた正確な付与日数の計算

前述の基準表を常に参照し、継続勤務期間と所定労働日数に応じて正しい有給休暇の日数を付与してください。計算に不安がある場合は、複数の担当者で確認するか、専門家(社会保険労務士など)に相談することも検討してください。

3. 有給休暇管理簿の適正な作成・管理

労働基準法により、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する義務があります。パートタイム労働者についても同様です。付与日数、取得年月日、取得日数を正しく記載し、いつでも確認できるように管理してください。これは、年5日の有給休暇取得義務の履行確認のためにも不可欠です。

4. 時季変更権の適切な行使判断

パートタイム労働者からの有給休暇申請に対しても、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、時季変更権を行使できます。しかし、その判断は慎重に行う必要があり、代替要員の確保や業務の調整など、使用者の努力義務も考慮しなければなりません。安易な時季変更権の行使はトラブルの原因となります。

5. 不利益取扱いの禁止の徹底

パートタイム労働者が有給休暇を取得したことを理由として、賃金の減額、不利益な配転、その他の不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。これはフルタイム労働者と同様です。管理職は、有給休暇取得を理由とした差別的な取扱いがないよう、組織内で徹底してください。

6. 労働者への取得促進と配慮

年10日以上の有給休暇が付与される労働者(比例付与により10日以上付与されるパートタイム労働者も含む)に対しては、年5日について使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられています。パートタイム労働者に対しても、労働時間やシフトの特性を踏まえつつ、計画的な取得や時季指定を検討し、有給休暇を取得しやすい雰囲気作りを行うことが管理職の重要な役割です。

まとめ

パートタイム労働者への年次有給休暇の比例付与は、労働基準法に基づき使用者に課された義務です。正確な計算と適切な管理を行うことは、法令遵守はもちろんのこと、労働者の権利保障とモチベーション維持、ひいては生産性の向上にも繋がります。

管理職・人事労務担当者の皆様には、本記事で解説したポイントを踏まえ、貴社のパートタイム労働者の方々が安心して有給休暇を取得できるよう、正確な知識をもって丁寧に対応していただければ幸いです。不明な点や複雑なケースについては、専門家へご相談いただくことをお勧めします。

「フル有給攻略ガイド」では、今後も有給休暇に関する様々な情報を発信してまいります。