【フル有給攻略】試用期間中の年次有給休暇 付与要件と管理実務
試用期間中の年次有給休暇 付与要件と管理実務
企業の管理職や人事労務担当者の皆様は、新入社員の試用期間中に年次有給休暇(以下、有給休暇)の申請を受けた際に、どのように対応すべきか疑問を持たれることがあるかもしれません。「試用期間中の社員にも有給休暇は付与されるのか」「いつから付与されるのか」といった点は、しばしば誤解が生じやすいポイントです。
本稿では、「フル有給攻略ガイド」のコンセプトに基づき、試用期間中の有給休暇に関する法的な付与要件、勤続期間の正しい考え方、そして管理職・人事担当者が知るべき管理実務上の注意点について、労働基準法や関連する通達を踏まえて徹底的に解説します。適切な知識を持ち、コンプライアンスを遵守した有給休暇管理を行うための一助となれば幸いです。
試用期間中の勤続期間は「勤続年数」に含まれるか
年次有給休暇は、労働基準法第39条において、雇入れの日から起算して6ヶ月継続勤務し、かつ、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して付与されると定められています。この「雇入れの日から起算して6ヶ月継続勤務」という要件における勤続期間の算定について、試用期間がどのように扱われるかが論点となります。
結論から申し上げますと、試用期間は、原則として年次有給休暇の付与要件である「継続勤務」の期間に算入されます。
これは、労働基準法における「継続勤務」の考え方に基づくものです。労働基準法においては、試用期間中であっても、解約権が留保されているだけであり、労働契約自体は成立していると解釈されます。したがって、試用期間満了後に本採用となった場合、雇入れの日(すなわち試用期間の開始日)から起算して勤続期間を計算することになります。
厚生労働省の通達(昭和63年3月14日付け基発第150号)においても、試用期間は原則として「継続勤務」の期間に含める旨が示されています。
試用期間中の社員への具体的な有給休暇付与日
上記の通り、試用期間も継続勤務期間に含まれるため、入社日(試用期間開始日)から起算して6ヶ月が経過し、かつその期間の全労働日の8割以上を出勤していれば、所定の有給休暇が付与されます。
例えば、4月1日に入社し、3ヶ月の試用期間(4月1日~6月30日)を経て7月1日に本採用となった社員の場合を考えます。この社員は、入社日の4月1日から起算して6ヶ月後の10月1日に、最初の有給休暇が付与されることになります。試用期間が終了した7月1日ではなく、あくまで入社日からの起算です。
付与される日数については、通常の労働者と同様に、継続勤務年数に応じて労働基準法第39条に定められた日数が付与されます(週所定労働日数や週所定労働時間によっては比例付与となる場合もあります)。
出勤率の計算における試用期間の扱い
有給休暇の付与要件である「全労働日の8割以上出勤」という要件を満たしているかの判断においても、試用期間中の勤務は算入されます。
全労働日とは、労働契約上労働義務のある日を指します。試用期間中も労働契約が有効である以上、その期間の労働日も全労働日に含まれます。そして、実際に勤務した日数や、労働基準法上の出勤とみなされる日(業務上の負傷・疾病による休業期間、育児休業・介護休業期間、産前産後休業期間、年次有給休暇を取得した日など)を分子として計算した出勤率が8割以上であれば、有給休暇が付与されます。
試用期間中に欠勤が多い場合、入社日から6ヶ月経過時点での出勤率が8割を下回り、最初の有給休暇が付与されないという状況も起こり得ます。
管理職・人事担当者の実務対応
試用期間中の社員の有給休暇について、管理職・人事担当者は以下の点を理解し、適切に対応する必要があります。
- 付与タイミングの正確な把握: 入社日(試用期間開始日)から6ヶ月経過時点であることを正確に把握し、社内システムや管理簿に反映させる必要があります。
- 試用期間中の申請への対応: 入社後6ヶ月未満の社員からの有給休暇申請については、まだ法定の有給休暇が付与されていないため、原則として法的な有給休暇として処理する必要はありません。欠勤として扱うか、会社独自の特別休暇を与えるかなどは、就業規則等に基づき判断することになります。ただし、入社日からの勤続期間が6ヶ月に満たない場合でも、会社が任意に有給休暇に準ずる休暇を付与することは差し支えありません。
- 時季変更権の行使: 入社後6ヶ月経過し、法定の有給休暇が付与された社員から時季指定があった場合、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季に変更させることができます(時季変更権)。試用期間満了前であること自体を理由に時季変更権を行使することは認められませんが、他の社員と同様に業務への影響度を考慮して判断することになります。
- 試用期間満了前の退職: 試用期間満了前に社員が退職する場合でも、入社日からの勤続期間が6ヶ月以上であり、かつ出勤率の要件を満たしていれば、退職日までに未消化の有給休暇を行使する権利があります。管理職としては、円滑な引き継ぎと有給消化の希望を調整する必要があります。
- 社員への周知: 試用期間中の社員に対しても、有給休暇の付与要件や付与タイミングについて正確な情報を伝えることが重要です。誤解によるトラブルを防ぐため、入社時のオリエンテーション等で説明を行うことが推奨されます。
まとめ
試用期間は、年次有給休暇の付与要件である「継続勤務」の期間に原則として算入されます。したがって、試用期間中の社員であっても、入社日から起算して6ヶ月経過し、かつ8割以上の出勤率を満たしていれば、法定の有給休暇が付与されます。
管理職・人事担当者の皆様は、この法的な原則を正しく理解し、試用期間中の社員の有給休暇管理を行う必要があります。正確な付与日の管理、試用期間中の申請への適切な対応、そして退職時の未消化有給休暇の処理など、実務上の注意点を押さえることが、コンプライアンス遵守と社員からの信頼獲得につながります。
「フル有給攻略ガイド」では、今後も管理職・人事担当者の皆様が年次有給休暇に関する疑問を解消し、適切な管理・運用を行うための情報を発信してまいります。