フル有給攻略ガイド

管理職・人事担当者が知るべき 週所定労働日数の少ない労働者への有給休暇付与と管理

Tags: 有給休暇, パートタイマー, アルバイト, 労働基準法, 比例付与, 人事労務管理, 管理職

はじめに:多様な働き方における有給休暇管理の重要性

企業の管理職や人事労務担当者の皆様におかれましては、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトといった多様な働き方をする労働者の労務管理にも日々ご尽力されていることと存じます。特に年次有給休暇(以下、有給休暇)については、正社員とは異なる付与日数の計算方法や、管理上の留意点が存在するため、正確な知識が不可欠です。

週所定労働日数が少ない労働者への有給休暇付与を誤ると、労働基準法違反のリスクが生じるだけでなく、現場での混乱や労働者との信頼関係にも影響を及ぼしかねません。本稿では、法改正や労働基準法の原則に基づき、週所定労働日数の少ない労働者への有給休暇の正しい付与日数、計算方法、そして管理職・人事担当者が押さえるべき運用上のポイントを解説します。

週所定労働日数が少ない労働者への有給休暇付与の原則:比例付与

労働基準法第39条において、労働者は雇い入れの日から6ヶ月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合に、勤続期間に応じた日数の有給休暇が付与されると定められています。この原則は、パートタイマーやアルバイトといった短時間労働者にも同様に適用されます。

ただし、週所定労働時間が30時間未満であり、かつ週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者については、通常の労働者とは異なる日数の有給休暇が付与されます。これを「比例付与」と呼びます(労働基準法施行規則第24条の3)。これは、所定労働日数が少ない労働者に対して、その働き方に見合った日数の有給休暇を保障するための制度です。

比例付与の具体的な計算方法

比例付与によって付与される有給休暇の日数は、労働者の「週所定労働日数」または「年間所定労働日数」と「勤続年数」に応じて、労働基準法施行規則に定められた表に基づき計算されます。

| 勤続期間 | 週所定労働日数 | 年間所定労働日数 | 付与日数 | | :------------ | :------------- | :--------------- | :------- | | 6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 7日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 5日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 3日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 1日 | | 1年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 8日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 6日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 4日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 2日 | | 2年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 9日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 8日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 5日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 2日 | | 3年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 10日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 9日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 6日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 3日 | | 4年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 12日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 10日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 7日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 4日 | | 5年6ヶ月 | 4日 | 169日〜216日 | 13日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 11日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 8日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 5日 | | 6年6ヶ月以上 | 4日 | 169日〜216日 | 15日 | | | 3日 | 121日〜168日 | 13日 | | | 2日 | 73日〜120日 | 9日 | | | 1日 | 48日〜72日 | 7日 |

(注)週所定労働日数が定まっていない場合は、1年間の所定労働日数で判断します。

この表から分かる通り、付与日数は、同じ勤続年数であっても週または年間の所定労働日数によって細かく定められています。労働者の働き方が変化した場合(例:週3日勤務から週4日勤務になった)、付与日数を再計算する必要があるため、労働契約の内容や実態を正確に把握しておくことが重要です。

管理職・人事担当者が押さえるべき運用上の注意点

1. 週所定労働日数・年間の所定労働日数の正確な把握

比例付与の計算の基礎となる労働日数を正確に把握することが、適正な付与の出発点です。雇用契約書に記載されている日数だけでなく、実際の勤務実態も確認する必要がある場合があります。週によって労働日数が変動する場合などは、年間を通しての平均日数や、契約上の年間の所定労働日数を確認してください。

2. 年次有給休暇管理簿の作成・保存義務

2019年4月1日の労働基準法改正により、使用者は労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存する義務が課されました(労働基準法第39条、労働基準法施行規則第24条の7)。これは比例付与の対象となる労働者についても同様です。管理簿には、労働者ごとの「基準日」「付与日数」「取得年月日」「取得日数」「残日数」を記載する必要があります。手書き、Excel、勤怠管理システムなど、形式は問いませんが、必要な項目が網羅されている必要があります。

3. 年5日の有給休暇取得義務(時季指定義務)の適用

同じく2019年4月1日の法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、付与日から1年以内に5日間の有給休暇を労働者に取得させる義務が使用者側に課されました(労働基準法第39条第7項)。

比例付与の対象となる労働者のうち、勤続年数3年6ヶ月以上で週所定労働日数が3日の労働者(付与日数9日)や、勤続年数4年6ヶ月以上で週所定労働日数が2日の労働者(付与日数7日)など、付与日数が10日未満の労働者については、この年5日取得義務の直接的な適用はありません。 ただし、労使の協力により、労働者の心身のリフレッシュのために有給休暇の取得を奨励することは、全ての労働者に対して望ましい姿勢です。

一方、勤続年数3年6ヶ月以上で週所定労働日数が4日の労働者(付与日数10日)や、勤続年数6ヶ月時点で週4日勤務(付与日数7日)から週5日勤務に変更になった結果、付与日数が10日以上となった労働者には、年5日取得義務が適用されます。 労働者の働き方の変化に伴って、この義務の適用対象となるか否かが変わる可能性があるため、注意深く管理する必要があります。

4. 時季変更権・計画的付与制度の適用

比例付与の対象者についても、使用者の時季変更権(労働者が請求した時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に、他の時季に変更できる権利)は適用されます。ただし、時季変更権は必要最小限にとどめ、安易な行使は控えるべきです。

また、労使協定を締結すれば、比例付与の対象者を含む特定の労働者グループに対して、有給休暇の計画的付与制度を適用することも可能です。ただし、比例付与の対象者のみを対象とする計画的付与制度を導入する場合は、その対象者の範囲や運用方法について、労使協定で明確に定める必要があります。

5. 不利益取扱いの禁止

有給休暇を取得したこと、または取得しようとしたことを理由として、解雇や減給、降格、人事評価での不当な評価など、労働者に対して不利益な取扱いをすることは労働基準法で禁止されています(労働基準法第136条)。これは比例付与の対象者についても同様です。パートタイマーやアルバイトだからといって、有給休暇取得を躊躇させるような言動や制度は厳に慎む必要があります。

6. 賃金の計算

有給休暇を取得した日の賃金については、原則として以下のいずれかの方法で支払う必要があります(労働基準法第39条第9項、労働基準法施行規則第25条)。 * 平均賃金 * 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金 * 労使協定で定めた場合は、健康保険の標準報酬日額に相当する金額

パートタイマーやアルバイトの場合、日によって所定労働時間が異なる場合など、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」の計算が複雑になることがあります。労使協定で定めることが可能であれば、計算が比較的容易な「平均賃金」や「標準報酬日額」を選択肢として検討することもできます。どのような方法を採るにしても、就業規則等で明確に定めておくことが重要です。

まとめ:適正な管理が信頼構築の基盤

週所定労働日数が少ない労働者への年次有給休暇の付与と管理は、労働基準法を遵守する上で避けては通れない重要な業務です。比例付与の計算方法を正確に理解し、年次有給休暇管理簿を適切に作成・保存し、年5日取得義務の適用対象者を正確に把握することが、管理職・人事担当者に求められます。

単に法的な義務を果たすだけでなく、パートタイマーやアルバイトを含む全ての労働者が、その働き方に応じて適切に有給休暇を取得できる環境を整備することは、労働者のエンゲージメント向上、職場全体の士気向上、そして企業への信頼構築にも繋がります。

「フル有給攻略ガイド」では、今後も法改正や判例に基づいた実践的な情報を提供してまいります。本稿が、皆様の有給休暇管理業務の一助となれば幸いです。適正な有給休暇管理を通じて、コンプライアンスを遵守し、働きがいのある職場環境を築いていきましょう。