管理職・人事担当者必見 病気欠勤時の年次有給休暇 法的論点と実務対応
管理職・人事担当者必見 病気欠勤時の年次有給休暇 法的論点と実務対応
はじめに:病気欠勤と有給休暇の扱いに迷う管理職へ
部下から「今日、体調が悪くて休みたいのですが、有給休暇を使えますか?」と相談された際、どのように対応すべきか迷われた経験はございませんでしょうか。急な病気や怪我による欠勤は、業務調整だけでなく、その日の休暇を年次有給休暇として扱うべきか否かという法的な問題も伴います。
年次有給休暇は、労働基準法によって労働者に与えられた「心身の疲労を回復し、次なる労働意欲を維持・向上させるため」の権利であり、原則として労働者が時季を指定して取得するものです。一方で、病気や怪我による欠勤は、本来であれば労働義務の不履行にあたります。
この記事では、病気欠勤と年次有給休暇の関係について、管理職および人事労務担当者が知っておくべき法的論点と、コンプライアンスを遵守しつつ従業員への配慮も行うための具体的な実務対応について解説します。「フル有給攻略ガイド」のコンセプトに基づき、法改正や判例の知識も踏まえ、実践的なガイドを提供します。
病気欠勤は年次有給休暇の取得理由になり得るか
労働基準法において、年次有給休暇を取得する理由や目的は限定されていません。したがって、労働者はその取得理由を問われることなく、原則として自由に時季を指定して有給休暇を取得することができます。レジャーや旅行のために使うこともあれば、私用や通院のために使うことも可能です。
しかし、ここでのポイントは「労働者による時季指定」があるか否かです。病気による欠勤は、予期せぬ事態であり、多くの場合、事前に労働者が時季を指定する形式ではありません。
法的には、病気欠勤は、労働者が労働義務を履行できない状態を指します。労働基準法上の年次有給休暇は、労働義務がある日に、その労働義務を免除して賃金を保障するものです。したがって、労働義務が履行できない状態である病気欠勤の日に、事後的に会社が一方的に、あるいは従業員の申請に基づいて「年次有給休暇として扱う」ことに、法的な義務はありません。
つまり、病気欠勤日を年次有給休暇として処理するかどうかは、原則として会社の判断に委ねられています。多くの企業では、就業規則等で「病気欠勤の場合は欠勤控除とする」あるいは「従業員の申請があれば有給休暇として扱うこともできる」などと定めています。
従業員からの申請があった場合の対応
では、部下から「病気で休んだ日を、有給休暇扱いにしてもらえませんか?」と申請があった場合はどう対応すべきでしょうか。
結論から申し上げると、会社がその申請を受け入れ、病気欠勤日を年次有給休暇として処理することは差し支えありません。これは、前述の通り、法的な義務ではないものの、労働者の不利益になるわけではなく、福利厚生的な観点や従業員への配慮として認められるためです。多くの企業でこのような運用が行われています。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 就業規則等との整合性: まず、自社の就業規則や賃金規程において、病気欠勤時の扱いがどのように定められているかを確認してください。規定で「欠勤控除とする」と明記されている場合でも、「ただし、本人の申請があれば有給休暇として扱うこともできる」といった例外規定があるか、あるいは慣習として認められているかを確認します。規定がない場合は、原則として欠勤控除となりますが、申請に応じて有給休暇として扱う運用を新たに始めることも可能です。ただし、その場合は公平性の観点から、一貫性のある対応が必要です。
- 従業員の権利としての有給休暇: 労働者が事前に「〇月〇日は通院のため有給休暇を取得したい」と申請していたにもかかわらず、当日に「病気で休むことになった」というケースとは異なります。この場合は、当初の有給休暇の申請が優先されるべきです。ここで解説しているのは、あくまで「病気で急遽欠勤した日」を後から有給休暇扱いにできるかという点です。
- 傷病手当金との関係: 健康保険の傷病手当金は、病気や怪我で働けない状態が連続3日以上続き、4日目以降で会社を休み、その間賃金が支払われない場合に支給されます。病気欠勤日を有給休暇として処理し、賃金が支払われた場合、その日については原則として傷病手当金は支給されません。従業員によっては、傷病手当金の受給を希望する場合もありますので、この点も説明できるよう準備しておくことが望ましいです。
管理職として取るべき実務対応と注意点
管理職は、部下から病気欠勤時の有給休暇に関する相談を受けた際に、法的な正確性を持ちつつ、部下への適切な配慮を行う必要があります。
- 自社ルール(就業規則)の正確な理解: 最も基本となるのは、自社の就業規則において、病気欠勤の扱い、有給休暇の申請方法・タイミングなどがどのように定められているかを正確に理解することです。これにより、自信を持って部下に説明することができます。
- 従業員への丁寧な説明: 病気欠勤を有給休暇として扱うことが可能かどうか、またその場合のメリット・デメリット(賃金保障、傷病手当金の関係など)を、従業員が理解できるよう丁寧に説明してください。従業員が自らの状況に合った選択(欠勤控除とするか、有給休暇とするか)ができるようにサポートします。
- 公平性・一貫性の確保: 特定の部下には認めるが、他の部下には認めないといった不公平な対応は、従業員間の信頼を損なう可能性があります。可能な限り、就業規則や会社の定めたルールに則り、全ての従業員に対して一貫性のある対応を心がけてください。ルールが曖昧な場合は、人事部と連携し、明確な運用基準を設けることを検討してください。
- 安易な有給取得勧奨の回避: 「病気で休むくらいなら、有給を使ったら?」といった安易な声かけは、労働者による時季指定権の侵害とみなされるリスクがあります。有給休暇はあくまで労働者が主体的に取得時季を指定するものです。会社が一方的に有給休暇取得を「命じる」ことは、法的に認められていません。病気欠勤の場合、従業員本人の申請があって初めて、会社がそれを有給休暇として処理することを「認める」というスタンスが適切です。
- 連続する病気欠勤への対応: 短期間の病気欠勤が繰り返されたり、長期にわたる病気欠勤が発生したりした場合は、単なる有給休暇の処理問題だけでなく、従業員の健康状態の把握や、休職制度の適用検討など、より広範な対応が必要となります。この場合は、速やかに人事労務担当者と連携し、適切な手続きを進めてください。
まとめ:管理職として有給休暇の適切な運用を
病気欠勤時の年次有給休暇の扱いは、一見単純なようにも見えますが、労働基準法の原則理解、自社ルールの確認、そして従業員への丁寧なコミュニケーションが不可欠です。管理職は、法的な正確性を担保しつつ、部下が安心して働ける環境を整える役割を担っています。
病気欠勤を有給休暇として扱うかどうかは会社の判断に委ねられていますが、従業員の申請に基づいて認めることは一般的な運用です。重要なのは、その場合のルールを明確にし、従業員に正確に伝え、公平な対応を徹底することです。
「フル有給攻略ガイド」としては、管理職の皆様がこのようなケースにも自信を持って対応できるよう、日頃から労働基準法や自社の就業規則の理解を深め、従業員との信頼関係を築くことを推奨します。適切な有給休暇の管理・運用は、コンプライアンス遵守だけでなく、従業員のエンゲージメント向上にもつながる重要な取り組みです。