【フル有給攻略】使用者の責に帰すべき事由による休業期間中の年次有給休暇 付与要件と実務対応
はじめに
企業経営において、予期せぬ事態により事業の一部または全部を休止せざるを得ない状況が発生することがあります。このような「会社の都合による休業」が発生した場合、従業員の賃金支払いや、それに伴う年次有給休暇の付与要件である「出勤率」の計算について、管理職や人事労務担当者は正確な法的知識に基づいて対応する必要があります。
本稿では、「フル有給攻略ガイド」のコンセプトに基づき、使用者の責に帰すべき事由による休業期間が年次有給休暇の付与にどのように影響するのか、法的根拠と具体的な計算方法、そして管理職・人事担当者が知っておくべき実務対応について詳しく解説します。正確な知識を身につけ、コンプライアンスを遵守した有給休暇管理体制を確立するための手引きとしてご活用ください。
使用者の責に帰すべき事由による休業とは
「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは、労働基準法第26条に規定される休業を指します。これは、経営上の判断、設備の故障、資材の不足、親会社の経営難、感染症による事業活動の制限など、使用者側の都合や、使用者側に起因すると評価される事情によって労働者が働くことができなくなった状態です。天災事変等による不可抗力による休業とは区別されます。
休業期間中の賃金支払い義務
労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定めています。これが一般的に「休業手当」と呼ばれるものです。
この規定は、労働者の都合ではなく、使用者側の都合によって労働機会が奪われた場合に、労働者の生活を保障するためのものです。管理職・人事担当者は、どのようなケースが「使用者の責に帰すべき事由」に該当するのか、正確に判断する必要があります。判断に迷う場合は、労働基準監督署や専門家(社会保険労務士など)に相談することが推奨されます。
年次有給休暇の付与要件「出勤率」
年次有給休暇は、労働基準法第39条に基づき、以下の2つの要件を満たした労働者に付与されます。
- 雇入れの日から6ヶ月継続勤務していること
- その6ヶ月間の全労働日の8割以上出勤したこと
その後も、継続勤務1年ごとに、前1年間の全労働日の8割以上出勤した場合に、勤続期間に応じた日数の有給休暇が付与されます。この「全労働日の8割以上出勤」という要件を計算する際に、「出勤日」に算入するかどうかが重要な論点となります。
休業期間は「出勤率」計算にどう影響するか
使用者の責に帰すべき事由による休業期間が、年次有給休暇の付与要件である「出勤率」の計算においてどのように取り扱われるかは、労働基準法に基づく行政解釈や判例によって明確にされています。
結論として、使用者の責に帰すべき事由による休業期間は、年次有給休暇の付与要件である出勤率を算定する際の「出勤日」として取り扱われます。
これは、労働者が働く意思と能力を有しているにも関わらず、使用者側の都合で働くことができなかった期間について、労働者に不利益を課すべきではないという考えに基づいています。もし休業期間を出勤日として扱わないと、労働者の出勤率が低下し、年次有給休暇が付与されない、あるいは付与日数が減少するという不利益が生じるためです。
同様に、業務上の負傷や疾病により休業した期間(労働基準法第76条による療養のための休業)、育児休業・介護休業した期間、産前産後休業した期間なども、法律上、出勤日として取り扱われます。使用者の責に帰すべき事由による休業も、これらに準じるものとして扱われるのです。
出勤率の計算における具体的な取り扱い
出勤率は、以下の計算式で求められます。
出勤率 = (出勤日数) ÷ (全労働日) × 100
ここで、使用者の責に帰すべき事由による休業期間がある場合の「出勤日数」および「全労働日」の算定においては、以下の点に留意が必要です。
- 全労働日: 就業規則や雇用契約等で定められた労働日数を指します。
- 出勤日数: 全労働日のうち、実際に出勤した日数に加え、使用者の責に帰すべき事由による休業期間中の日数を含めて計算します。
例えば、年間所定労働日数が240日である従業員が、使用者の責に帰すべき事由により30日間休業した場合を考えます。この従業員が他の期間は全て出勤していたとすると、出勤率は以下のようになります。
- 全労働日: 240日
- 出勤日数: (実際に出勤した日数) + 30日
- 仮に実際に出勤した日数が210日であれば、出勤日数 = 210日 + 30日 = 240日
- 出勤率: 240日 ÷ 240日 × 100 = 100%
この場合、出勤率は8割以上となるため、他の要件(継続勤務期間)を満たしていれば、定められた日数の年次有給休暇が付与されることになります。
重要なのは、休業期間中に実際に勤務していなかったとしても、使用者の責に帰すべき事由による休業であれば、その期間は労働者の不利益にならないよう出勤日数に含めて計算するという原則です。
管理職・人事担当者の実務対応
使用者の責に帰すべき事由による休業が発生した場合、管理職・人事担当者は以下の点に留意して対応を進める必要があります。
- 休業期間の正確な記録: いつからいつまで、どのような理由で休業したのか、対象となる労働者は誰かなど、休業に関する詳細な記録を正確に残すことが不可欠です。これは、休業手当の支払い義務の根拠となるだけでなく、後の年次有給休暇の出勤率計算の基礎資料となります。
- 年次有給休暇管理簿への反映: 労働者ごとに作成・管理している年次有給休暇管理簿において、休業期間が年次有給休暇の付与にどのように影響するかを正確に反映させる必要があります。特に、次回の付与日を迎える労働者については、休業期間を出勤日として計算に含め、適切に付与日数を確認します。
- 従業員への説明: 休業によって従業員の年次有給休暇の権利が損なわれることはないことを、従業員に正確に説明することが重要です。休業期間も出勤率計算上の出勤日として扱うことを伝え、不安を解消し、信頼関係を維持に努めます。
- 不利益取扱いの禁止の徹底: 使用者の責に帰すべき事由による休業を取得したこと(この場合は働く機会を奪われたこと)を理由として、年次有給休暇の付与日数を減らす、あるいは付与しないといった不利益な取り扱いをすることは、労働基準法上認められていません。このような不利益取扱いがないよう、管理体制を徹底します。
まとめ
使用者の責に帰すべき事由による休業期間は、労働基準法に基づく年次有給休暇の付与要件である出勤率を計算する際に、出勤日として取り扱われます。これは、使用者側の都合による休業によって労働者が不利益を被ることを防ぐための重要な原則です。
管理職・人事担当者は、この原則を正確に理解し、休業期間の記録、年次有給休暇管理簿への正確な反映、そして従業員への丁寧な説明を通じて、適正な年次有給休暇の管理を行う責任があります。正確な知識に基づいた実務対応は、コンプライアンス遵守だけでなく、従業員の安心感を高め、健全な労使関係を築く上でも不可欠です。「フル有給攻略」は、単に有給を消化させることだけでなく、労働者の権利を尊重し、適正な労働環境を整備することを含みます。本稿が、そのための実践的な一助となれば幸いです。